台湾・香港のジャーナリストの質問に答えて~日本政府は国際社会に虚偽の情報を流している―福島と周辺地域の放射能汚染は決して安全・安心な状況にはない
著者: 渡辺悦司、連絡調整: 福島からの避難者K
協力: 香港核能輻射研究會
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以下は、福島からの避難者K氏に対する香港核能輻射研究會(Hong Kong Society for the Study of Nuclear Radiation、HKSSNR)と台湾のフリージャーナリストの質問に、K氏に代わり渡辺悦司(市民と科学者の内部被曝問題研究会会員)が回答したものである。発表にあたり多少加筆訂正を行った(2018年1月18日)。その内容は、台湾の媽媽監督核電聯盟(原発監視母親連盟)などの以下のサイトに中国語(繁体字)で掲載されている。
http://e-info.org.tw/node/208883
香港核能輻射研究會フリージャーナリスト[香港・台湾]質問1
福島県は、中国語での観光紹介ホームページを作成し、放射能についての説明も掲載しています。
http://www.tif.ne.jp/lang/tc/data/fukushima_tc.pdf
そこでは、人工放射線と自然放射線があるということを説明し、私達は元々放射線に囲まれた中で生活していたとでも思わせるような説明があります。また、国際基準では1ミリシーベルトであるが、それは一回のCT検査で直ぐに超えてしまう数値である等の説明もあり、放射線をそんなに心配する必要がないように思わせるような記載です。ホームページには「現在福島県の居住スペースにおける放射線量は相当限られており、空気中には放射性物質セシウムは存在しない。だから、呼吸して放射性物質を吸い込むことはない」ともあります。これは、福島はもう安全であるということでしょうか?
渡辺悦司[日本]回答
福島および周辺諸地域における放射線被曝状況に関して、福島からの避難者であるK氏あてにご質問いただき感謝いたします。お返事を代筆させていただいておりますのは、日本の放射線被曝に反対する市民・科学者グループ、市民と科学者の内部被曝問題研究会(ACSIR)の会員であります、渡辺悦司です。どうかよろしくお願いいたします。
まず第一に、日本の多くの反核活動家と、福島や関東などの汚染地域からの避難者たちは、世界中の人々に、日本政府が、放射線一般について、また2011年3月11日の東日本大震災・津波に引き続いた福島第一原子力発電所の核災害(以下福島事故と表記)が引き起こした放射線の健康影響について、述べている言説を決して「信用しない」よう警告してきました。
安倍晋三首相を先頭に日本政府と福島県などは一体となって、はっきりと何度もくり返し断言し強調してきました――「健康に対する問題は、今までも、現在も、これからも全くない」(安倍首相の記者会見での外国人記者への発言)と。この発言、下記の日本の政府ウェブサイトにありますのでご参照ください。
http://japan.kantei.go.jp/96_abe/statement/201309/07argentine_naigai_e.html
このような主張は完全な嘘でありデマです。日本政府のこれらの主張は、歴史的に蓄積されてきた数多くの放射線科学と疫学の研究成果を公然と否定し踏みにじるものです。このような行動によって、日本政府は国内的にも国際的にも世論を組織的に欺瞞しているのです。
福島事故の間に放出された放射能の量について考えれば、これが嘘であることはおのずと明らかです。よく知られている通り、事故による放射能放出量と人間への長期的健康影響の程度を評価するのに用いられる基準の1つは、環境中に放出されたセシウム137(Cs137、半減期30年)の放射能量です。日本政府は、福島事故が、広島原爆が放出したCs137の168発分を放出したというデータを公表しています(これは過小評価ですが)。これが何の健康影響をもたらさないというのが日本政府の見解です。
この福島事故による放出量は、アメリカがネバダ核実験場で行った全大気中核爆発による放出量とほとんど同じ規模です。核実験が行われたネバダ砂漠は、居住が推奨される住宅地域に指定されてはいません。日本政府はこれと正反対の立場をとっています。事故原発周辺から避難した住民に対して、最高20mSv/年の放射線レベルの地域に帰還して住むことを勧めています。勧めるだけではありません。日本政府は、今まで行われてきた避難者への経済的な援助を切り捨てることによって、これらの地域から避難した多くの人々が、ネバダ核実験場同様の汚染地域に帰還して居住するほかないようにしています。
われわれの推計によれば、福島事故では、広島原爆のおよそ400~600倍のCs137が放出されました。事故で放出されたCs137のおよそ20%、すなわち広島原爆80~120発分が、日本に降下・沈着しました。そのうち、除染作業により回収できたのは、広島原爆のおよそ5発分だけです。除染作業の結果、大きなフレコンバッグの山のような堆積物が福島県中のほとんどの地区に残されて、あたかも福島の「典型的な風景」のようになっています。言い換えれば、広島原爆75-115発分に相当するCs137は、まだ福島と周辺諸県に、さらには日本全国に、残っていることを意味します。
そのうえ、日本政府は、現在、この広島原爆5発分についても、日本中の公共事業で8,000Bq/kg未満の除染残土を再利用する計画を立てています。これは、自国民を滅ぼすような集団自殺的計画ですが、現在、「風評損害を避ける」という口実の下で、再利用される場所を住民に知らせることなく、なし崩しに始まっています。このプロジェクトは、およそ広島原爆5発分の「死の灰」に相当するCs137を、日本全国に拡散することに等しいのです。日本政府は、危険な核物質を住民に対してバラ撒くという文字通りの核テロリストとして行動していると言われても仕方ありません。これが日本政府のやり方なのです。
そもそも、ネバダ核実験場のように汚染された福島県と周囲地域が、本当に、住民が永久に居住・生活し外国人観光客が観光に訪れるのに安全な場所であると考えられますか?たとえば、日本政府の帰還の基準は年間20mSv(以下20mSv/年と表記)ですが、全住民が毎年4-5回もCTスキャンを受けることなど考えられますか?しかも、最近の疫学調査では、CTスキャン1回(およそ4.5mSv照射)ごとに、子供たちのガンの危険性が24%増すこと明らかに示されています。以下のウェブサイトを参照してください。
http://www.bmj.com/content/346/bmj.f2360
また日本政府が無視しているのは、「ホット・パーティクル」の特別な危険性です。すなわち粒径がミクロン・サイズあるいはナノ・サイズの放射性微粒子が吸入され人体に吸収される場合、がんや心不全を含む多くの種類の病気をもたらす長期におよぶ危険性です。放射性微粒子とくに不溶性微粒子による内部被曝は、外部被曝よりもおよそ20~1,000倍も危険であると考えなければなりません。それは、放射性微粒子は、極めて近傍から、あるいは細胞そのものの内部で、放射線を照射することによって、DNAその他ミトコンドリアのような細胞器官に集中的な損傷を引き起こすからです。
日本政府がしばしば、「低線量被曝の安全」を宣伝するために使う主要な方法の1つは、人工放射能を自然放射能と比較することです。しかし、この論理は、人々をだますトリックです。
明かなことは、自然放射能による被曝も固有の健康リスクがあるということです。がんは、人工放射能が使われるずっと前から人間の死因の一つでした。自然放射能にも放射能に固有の健康リスクがあるのです。人工放射能に起因するリスクは、自然放射能のリスクに対比・比較されて終わりにはなりません。それは、自然放射能によるリスクの上に付け加えられなければなりません。それらの両方が被曝リスクの蓄積につながるからです。
たとえば、カリウム40(K40)は、典型的な自然に存在する放射性核種です。日本政府によると、K40からの成人の平均の内部被曝量は、およそ4,000Bqまたは0.17mSv/年です。下記の日本政府のウェブサイトを参照してください。
http://www.kantei.go.jp/saigai/pdf/g31_siryou5.pdf
国際放射線防護委員会(ICRP)リスク・モデル(2007年勧告)を使えば、K40によってもたらされるリスクを大まかにですが推定することができます。計算すれば、K40が日本で毎年およそ4,000例のがんの発症と1,000人のがん死をもたらしていることが示されます。人工放射線源によって、これと同一の放射線量が人体で加えられるならば、がんの発症とがん死は2倍になり、1年につき8,000例と2,000人となるでしょう。欧州放射線リスク委員会ECRR(2010年勧告)のモデルは、ICRPモデルを40分の1という大きな過小評価であるとして批判しています。ECRRに依拠すれば、これらの予測は、それぞれ40を掛けて、32万例と8万人に達することになります。
引用されておられる福島県ウェブサイトは「福島では、屋内の放射線量は現在非常に低くなっており、放射性セシウムは空気中には存在せず、放射性微粒子は呼吸によっては体内に侵入することはない」と述べています。完全なフェイク・ニュースです。
市民が運営する放射能測定所の多くの測定結果はこの主張を論駁しています。たとえば、いわき市(福島県)において2015年10月~12月に電気掃除機の使用済み紙パックの放射線量の測定で、4,800~5万3,900Bq/kgの放射性セシウムが観測されています。最大で5万4,000Bq/kgが吸引される室内を、行政の権力をバックに「放射性セシウムは空気中には存在せず」「放射性微粒子が呼吸によって体内に侵入することはない」と表現することは、デマゴギー以外の何物でもありません。下記のウェブサイトを参照してください。
http://www.iwakisokuteishitu.com/pdf/tsushin011.pdf
遺憾ながら、居住者と観光客にとって、福島の状況は決して安全では「ない」と結論しなければなりません。
質問2
引き続きこの福島県のホームページと記載内容に関連することです。「日本は事故発生後、放射性物質ヨウ素とセシウムの暫定基準値を定めました。更に福島県は、基準値を超えた商品に対して厳しく流通と摂取の制限をしています。現在、新しく設定された基準は暫定基準値に比べて更に厳しい基準値となっています。この新基準値を超えた食品は、引き続き流通と摂取の制限を受けているため、市場に出回っている食品はすべて安心して食すことができます。実際に、福島県では今まで約17万人の市民に対し内部被曝の検査を行ってきたのですが、セシウムが検出された人はほとんどおりません。」と記載されています。これは、私たちは安心して福島の食べ物を味わっていいということでしょうか?福島の方々は、内部被曝していないのでしょうか?
回答
これは、日本政府によるデマ宣伝の典型的事例の一つです。曖昧な表現で、具体的なデータなしに、明確な説明もせず、「安全で安心だ」と決めつけるのです。実際、日本政府は、住民の重大な被曝を示しているデータは一切公表していません。たとえば、指摘されておられる、福島の住民17万人のホール・ボディー・カウンター(WBC)検査によって放射性Csが検出されたケースが極めて少ないとされている福島県のウェブサイトの内容ですが、日本語版で調べてみました。
http://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/ps-wbc-kensa-kekka.html
2017年11月までに約33万人がWBC検査を受けています。ところが、福島県による検査結果は、ベクレル(Bq)ではなくミリシーベルト(mSv)の単位で公表されており、しかも最低が1mSvで切られています。1mSvを超えたのはわずか26人とされていますので、これが「セシウムが検出された人はほとんどいない」という評価になっていると考えられます。
では、WBCの測定値1mSvはBqに換算するとどうなるかというと、福島県の文書(下記7ページ)でこっそりと触れられており、セシウム137・134合計で5万1,000Bqです。
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/6497.pdf
ですから、何と5万Bq超のセシウムが体内に検出されなければ、すべて1mSv未満として、事実上不検出扱いとなる公表形式に最初からなっているのです。
福島県のデータで3mSv以上被曝した人が2人いますが、これは15万Bq超の被曝量です。2~3mSvすなわち平均およそ13万Bqの被曝量の人は10人、1~2mSvすなわち平均およそ8万Bqの被曝量の人は14人いるということです。
ユーリー・バンダジェフスキー氏のラットを使った実験では、1kgあたり991Bq程度のセシウム137の濃度を与えると、多臓器不全により40%が死んでしまいます(『放射性セシウムが人口学的病理学的影響』合同出版72ページ)。人間のリスクに換算してみますとおよそ600Bq/kg程度です。ですから、人間の標準体重60kgで3万6000Bq程度です。ですから、政府・福島県の言う「内部被曝1mSv」は、半数致死量となる可能性があるのです。
ですから、福島県のホームページのデータそのものが、県当局の評価とは正反対に、恐るべき被曝事実を示しているといわなければなりません。
日本政府は、食品の放射能汚染に関して真実を隠蔽しようとしてきました。なによりもまず、日本政府が定めている現行の食品の放射線基準(100Bq/kg)は高すぎ(つまり緩すぎ)、人間の健康にとって、とくに胎児、幼児、子供たちと妊婦にとって、危険なものです。事故から6年半が経って頻度は下がっていますが、日本中の多くの市民放射能測定所だけでなく、日本の農林水産省でさえ、多くの食品の放射能汚染の事例を報告しています。以下のウェブサイトを参照してください。
日本政府は、内部被曝の危険性を一貫して過小評価しています。この場合、われわれは2つの重要な要因を考慮しなければなりません。
第1に、個人の放射線感受性の違いが極めて大きいことです。本行忠志教授(大阪大学医学部)によると、Cs137の生物学的半減期をベースに評価した場合の放射線感受性の個人差は100倍にもなります。
第2に、体内に入った放射性物質は、いわゆる生物学的半減期による指数関数カーブに従って減少するとされてきましたが、実際にはこれを否定する新しい研究が存在することです。新しく提起されているモデルによると、汚染した食品を日々摂取すると、放射能濃度が時間経過と共に蓄積していく可能性が示唆されています。食物の摂取によって1日1Bqの内部被曝が毎日積み重なっていけば、人間の健康にとって決して安全ではありえません(詳細は以下に述べます)。
われわれは、海外の皆さまが、福島および周囲地域産の食品・農産物に対して、たとえ汚染レベルが今は一般的に減少したと言われているとしても、細心の注意を払われ、性急にもそれらの食品全体が完全に安全で安心して食べられるというような結論を導くことのないようにお勧めいたしたいと存じます。
質問3
福島県以外に、近隣県について伺いたいです。台湾の公共テレビは、以前「近隣県である栃木は、原子力発電所から遠く離れているだけでなく、5年間様々な関連対策がなされてきたため、栃木県の安全性に対して、日本国内における疑心は既に存在しない。栃木、群馬において、放射能の影響を心配する声は殆ど無い。」と報道しました。福島第一原子力発電所から距離がある都道府県は、安全であり、リスクは無いということでしょうか?
回答:
福島周辺諸県の放射能汚染に関しては、以下のウェブサイトをご参照ください。
http://www.gowest-comewest.net/statement/20170825english.html
この記事は、首都東京圏の汚染を検討したものです。しかし、栃木または東京以北の県でも、状況はほぼ同じであるか、事故を起こした福島第1原発に近いのでより深刻であるかです。
質問4
台湾の公共テレビをはじめ、一部の香港・台湾メディアは、福島県と近隣県の農家の放射能除去の取組を紹介しました。
http://ourisland.pts.org.tw/content/%E6%A0%B8%E9%A3%9F%E8%83%BD%E5%AE%89ii#sthash.JmkvSxYu.dpbs
「土壌表面の放射線量を測定し、農園の放射線地図を作成する。高圧洗浄機で樹木表面を一本一本洗浄し、放射性物質を流す」というものでした。また、これらの農家の努力は、科学的にも成果を得ているが、消費者が不安と感じる為に、売れないという話しをしていました。日本の放射能汚染された食べ物につきまして、これは消費者が信じるか信じないかだけの問題なのでしょうか?
回答
政府による除染作業にもかかわらず、山岳や山林や山間地に降下・沈着した大量の放射性物質が手つかずのままであるという問題があります。事故原発からの放出も止まっていません。現在、それらの放射性物質は、風、自動車、列車、川水、花粉、胞子、焼却炉排出物を通じて、とりわけ放射性の塵や微粒子の形態で、福島や周辺諸県の広い範囲の地域に、再飛散・再降下しています。例えば、以下のウェブサイトを参照してください。
http://www2.jpgu.org/meeting/2015/PDF2015/M-AG38_all_e.pdf
したがって、言及されておられるこれらの農家の努力は非常に貴重で立派なものではありますが、食品からの放射線被曝の危険性を完全に取り除くことはできません。問題は、土壌、藻類、植物、家屋、建物、森林、動物と人体の中に沈着した核物質として客観的に存在します。消費者の感情や心理や考え方の中に主観的な形で存在しているのではありません。
質問5
質問4と関連してですが、一部の台湾メディアでは、カリウムを含む肥料を用いてセシウムを除去する栽培方法を紹介しました。石井秀樹、五十嵐泰正という日本の学者が推薦していました。聞いたことありますでしょうか?それは、効果があるものなのでしょうか?どこか疑わしい部分は無いでしょうか?カリウムの肥料を使いセシウムを除去したとしても(研究によると、減少させることのみ可能で、完全に除去は不可能となっている。)、ストロンチウムの汚染があるはずです。日本政府が台湾に対して行ってきた福島原発関連の宣伝において、私たちはストロンチウムについての情報を聞いたことがありません。ストロンチウムの汚染に関連する情報をお持ちでしたら、ご教示いただけないでしょうか?
回答
言及されておられる日本の専門家たちの名前は知りませんでした。おそらく一般公衆のなかにある「ゼロ被曝リスク」志向こそが福島復興に対する障害であると批判してきた専門家たちのグループに属する人たちだと思われます。
ご承知の通り、セシウム(Cs)は化学的にカリウム(K)に似た特質があります。ですから、カリウム肥料の使用量を増やせば、それに応じて植物が放射性セシウムを吸収するのを抑えることができます。耕作地の汚染度を大きく下げることができなくても、農産物中のセシウム濃度を減らすことができます。こうして、カリウム肥料の通例を超える多用によって農産物の放射能汚染度を100Bq/kgという政府の基準値未満に引き下げることが可能です。
しかし、問題は残ります。つまり、この方法では
- 土壌セシウムの植物への移行を完全に防止することはできず、部分的に妨げることができるだけです。
- 農産物中のカリウム濃度を上昇させますので、人間がそれを摂取すると、体内のカリウム濃度の維持とホメオタシス(恒常性)に貢献している腎臓や心臓や神経系のような一連の臓器の負担を高めます。すなわち、高カリウムという新たな健康リスクを引き起こす可能性があります。
- 体内のカリウム濃度が高くなれば、放射性のK40の濃度も比例して高まります。ですから、放射性セシウムの危険性は減少しますが、K40による内部被曝の危険性は、リスクの相違(セシウムより小さい)はありますが、その結果として増加します。
残念ながら、お求めのストロンチウムに関する情報は非常に限られています。それを探し出すことはわれわれにとっても困難な課題です。日本政府と政府傘下の研究機関は、ストロンチウム汚染について、非常に限られたデータしか報告していません。しかし、日本政府が福島事故原発から80km以内のストロンチウム汚染の事実を認めていることは、重要です。以下のウェブサイトを参照してください。
http://radioactivity.nsr.go.jp/ja/contents/6000/5048/24/5600_110930_rev130701.pdf
日本の土壌のストロンチウム汚染に関しては米国エネルギー省のデータがあるのをご存知でしたでしょうか?これにはデータを可視化したウェブサイトもあります。以下をご覧下さい。
https://energy.gov/downloads/us-doennsa-response-2011-fukushima-incident-data-and-documentation
質問6
放射線量についての質問です。日本の学者五十嵐泰正は、「日本政府は、100ミリシーベルト(mSv/年)以下の放射線が体に与える影響は確認されていない。」と話し、彼が協力している農家では、日本政府が定めた100ベクレル/キロ基準よりも遥かに低い20ベクレル/キロ基準を設定しているそうです。
http://e-info.org.tw/node/205442
これは、100ミリシーベルト以下及び20ベクレル/キロ以下は、安心できる数値であるということでしょうか?
回答
ご指摘のように、日本政府は、100mSv以下の被曝が人間への健康影響を及ぼすことは、いかなる科学的研究によっても確認されていないと主張しており、100mSv未満の被曝は危険がないと示唆しています。
しかし、これは虚偽の主張です。政府当局は情報をねつ造していると言うほかありません。
実際には、すでに非常に多くの科学的研究が、100mSv未満の被曝によって生じる健康影響を確認し証明しています。たとえば、以下のウェブサイトを参照してください。
https://ehp.niehs.nih.gov/1408548/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24198200
http://www.bmj.com/content/346/bmj.f2360
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22766784
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3050947/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2696975/
しかも日本政府は、「100mSv」という語を、意図的にあいまいな形で、人々を混乱させる仕方で用いています。100mSvという表現には3つの意味を持たせることが可能です: ①一回の被曝量、②累積被曝量、③年間被曝量です。ご指摘の「100mSv」は、括弧内で言及しておられる「100mSv/年」とは同一物ではありませんし、等しくもありません。100mSv/年は、累積被曝量では、10年間で1Sv(人間の10%未満致死量相当)に、40年間で4Sv(同50%致死量相当)に達します。
現在政府が避難者を帰還させる基準としている20mSv/年は、②の累積被曝量で言えば、そこに5年間居住すれば日本政府がはっきり健康リスクがあると認めている100mSvに達することになります。日本政府は、この点に沈黙しています。
一部の農家の個人的な食品基準としての20Bq/kgに関して言えば、体組織からのセシウムの排出過程に注意を払うことが決定的に重要です。体内に入ったセシウムの濃度の減少は、一般に想定されている生物学的半減期による指数関数カーブに従わない可能性があるのです。カナダ在住の著名な無機生物化学者落合栄一郎氏は、何度も来日して講演されていますが、自著Hiroshima to Fukushima, Biohazards of Radiation (2014)の中で、前述のレゲット・モデルに基づいて、一度に体組織の中に入ったセシウムの濃度が、大部分の組織について、およそ10日間は比較的速く減少するが、その後、減少過程は減速し、停滞する傾向があると指摘しています(83ページ)。これは、Csの連続的な摂取が、たとえ非常に低い量でさえ、体内でCsの持続的蓄積という結果になることを意味しています。(ちなみに、落合氏の本は、無料で以下のウェブサイトからダウンロードすることができます。)
https://archive.org/details/HiroshimaToFukushima
レゲット・モデルに関しては下記のウェブサイトを参照してください。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14630424
チェルノブイリ事故による健康影響を詳細に分析したユーリー・バンダジェフスキー氏は、体内での放射性セシウム濃度が10Bq/kg以上になると安全ではないとしています。この低いレベルさえ、乳幼児に心電図異常を引き起こし、代謝性障害や高血圧や白内障その他を引き起こすことがありうるからです(同氏による2012年3月18日の日本での医師向けセミナーの資料による。大和田幸嗣「内部被曝の危険性」『原発問題の争点』緑風出版)。
したがって、われわれは、政府の言う100mSv未満の被曝も、農家が独自に設定した20Bq/kgの食品基準も、安全・安心では「ない」と明解に結論することができます。
ご質問と台湾・香港の状況をお知らせいただき、本当にありがとうございます。核のない世界を実現するための皆さまのご尽力・闘争に連帯の挨拶を捧げたいと存じます。
追加質問1
カリウム40やセシウム137は、異なる放射性物質ですが、人への影響に関しまして、同じリスクモデル計算を使用することができるのでしょうか?
回答
基本的にはできません。ですが、実際には、つまり実務的には、同じモデルを使って、その後、セシウム137の場合のリスクの大きな過小評価を補正するほかありません。
ご指摘の通り、ICRPリスクモデルを使う場合には、カリウム40もセシウム137も、線量に応じて同じリスクとして評価されます。しかし実際には、同じように内部被曝であっても、リスクは同じではありません。
カリウム40は、水溶性で、体内にかなり一様に拡散しますので、被曝もかなり均一になり、外部被曝に近くなります。他方、セシウム137は、とくに不溶性の放射性微粒子(炉心のメルトダウンと爆発により大量に生じました)として体内に侵入してきた場合、危険性は極めて高いと考えなければなりません。福島原発事故では、セシウム137の放射能量の約半分は、このような不溶性の微粒子、残り半分はイオンと考えてよいでしょう(佐藤志彦氏ら、地球惑星科学連合大会2016での報告)。
https://confit.atlas.jp/guide/event/jpgu2016/subject/MAG24-P01/detail
このような不溶性微粒子は、周辺の細胞に放射線を長期にわたり集中的に照射するので、被曝量は桁違いに大きくなります。しかも排出されにくく、長期に体内に留まります。ECRRは、このような不溶性微粒子による内部被曝の危険性(生物物理学的損害係数)を、カリウム40による内部被曝の20~1000倍と評価しています(ECRR勧告日本語版95ページ)。さらにECRRは、セシウム137が2段階壊変しベータ線とガンマ線を照射するので、危険度をさらに20~50倍としています。つまり400~5万倍と考えるべきでしょう。
セシウム137は、体液に溶解した場合でも、カリウムよりイオン径が少し大きく、カリウム・チャンネルを通過するのですが、その通過速度が極めて遅く、それによって濃縮され、心臓や腎臓その他の特定の臓器に蓄積されます。
もう一つは、壊変後の毒性の違いです。カリウム40もセシウム137も、放射線を放出して他の元素に変わりますが、その壊変後の元素の毒性の違いも、リスクの大きさに加わります。
つまり、カリウム40は、ほとんどが体内に多くあるカルシウムに、1割程度が不活性なアルゴンに変わりますが、両方とも毒性はほとんどありません。
他方、セシウム137は、放射線を出してバリウムに変わりますが、バリウムには細胞のカリウム・チャンネルの機能を阻害する働きがあり、毒性があります。とくに、カリウム・チャンネルが重要な役割を果たしている心臓や神経系などの情報伝達に、機能障害を生じさせる可能性があります。
このように、化学的には性質の似ているカリウム40とセシウム137は、その放射線学的危険性において大きく異なり、セシウムの方が桁違いにリスクが大きいのです。
追加質問2
私達は、ICRPは広島の原爆の数値を元に定められ、人工放射線のみに限るものと存じております。カリウム40は自然放射性核種です。
しかし、カリウム40は体内に存在するカリウムチャネルによって処理され、一定の濃度以下に保たれます。人工放射性核種セシウム137の体内での状況とは異なります。この2つの異なる核種を、同じ放射線リスクモデルで換算し、語ることは可能なのでしょうか。
香港と台灣では、天然放射線は大した問題ではないという宣伝が満ち溢れています。そのうえ、カリウムは人類にとって必要なものであり、多く摂取しても問題ないという見解が存在します。カリウム40のリスクに関する研究をご存じでしたら、ご教示いただければと存じます。
回答
ご質問の点、以下のように考えております。
- ご指摘の「K40は、体内に存在するカリウムチャネルによって処理され、一定の濃度以下に保たれます」という点、その通りです。ですから、K40による被曝は、体内でほぼ一様になり、外部被曝の場合に近くなります(同じではありませんが)。つまり、ICRPがリスクモデルの前提としている外部被曝と同一のモデルを適用しても、それほど現実とかけ離れないと考えられます。以上が、私が自然放射線のリスクを推計するために、ICRPモデルを適用可能と考え、その補正によって現実の被曝リスクに接近できると判断した理由です。
- もちろん、K40には、体内で、(a)がんをもたらす遺伝子変異の蓄積や細胞老化の促進などネガティブな作用と共に、(b)一様に活性酸素を産生し、体内の異物や毒素の分解を促すというようなポジティブな作用も、同時に果たしている可能性も否定できません。
生物進化の結果、このようなK40をめぐるプラスとマイナスの微妙なバランスが、生体内で成立している可能性は、否定できません。ただ、この場合でも、K40のネガティブな(a)の作用は必然的に生じるので、K40が「心配ない」「問題ない」ということにはなりません。まして、K40と同程度(4000Bq、年間0.17mSv)までのCs137/134の体内への摂取は「安全」「心配ない」というようなことには、決してなりません。
Csの場合には、被曝の様式が異なりますので、前に書きましたように桁違いのリスク(ECRRによればK40の20~1000倍)になります。 - 「カリウム40のリスクに関する研究」はないかとのご質問ですが、私のK40や自然放射線についての議論は、ジョン・W・ゴフマン氏の『人間と放射能』(日本語版)、原著John W Gofman; Radiation and Human Health 1981に基づいています。その第18章第1節が、自然放射能によるがん死数推計に充てられています(日本語版)。K40のリスクについても含まれています(481~483ページ)。
ゴフマン氏は、自然放射線それ自体の危険性をはっきりと指摘し、自分のリスクモデルを自然放射線にも適用し、「地球起源の放射線による被曝とがん死数」を、全米で年間4万7500件ほどと推計しています。うち、K40は、地球起源の放射線による被曝量全体の33.7%を占めているとしています。
ここからは、私の計算ですが、K40による被曝がもたらしているがん死数は、全米で年間約1万6000件程度になります。現在の日本の人口を当時のアメリカの半分くらいとすると、日本についてはおよそ年間8000件ほどとなります。ですから、ICRPリスクモデルが自然放射能にも適用できると「仮定」(もちろん私が行った仮定ですが)して計算した、年間約1000件というリスクは、過小評価ではあっても、決して法外な推計やリスクの過大評価ではありません。 - これには、他のやり方もあります。ここでは詳論できませんが、日本における住民の平均被曝量5.97mSv/年(政府が発表している自然放射線プラス医療用など人工放射線)と、年間のがん死総数(事故直前年)35万3500人から、仮にがん死がすべて放射線によるものであったと仮定した場合のリスク係数が計算できます(約4700/1万人・Sv)。
ICRPのがん死のリスク係数(450/1万人・Sv)は、ちょうど10分の1程度です。ですから、現に起こっているがん死の1割程度が放射線関連、さらにその3分の1(3%程度)が自然放射線関連だということになります。
これによっても、ICRPモデルを使用することに、不自然さはありません。もちろん、ICRPのやり方で計算すると、どうしても放射線によるがん死者数などは過小評価になってしまいますが。台湾の統計に基づいてもやってみてください。
謝辞: この文章を作成するにあたってご協力いただいた、台湾のフリージャーナリストの方、GoWest-ComeWestの会の皆さま、とりわけK氏と石津望氏に、また事前に内容をチェックいただいた山田耕作・遠藤順子両氏に、深く感謝いたします。