『チェルノブイリ原発事故がもたらしたこれだけの人体被害』より引用

1.低線量被曝(0~500ミリシーベルト)の影響を系統的に調査、検討したが、チェルノブイリ原発事故以前には、低線量被曝による遺伝的障害の存在は明確にされていなかった。遺伝的障害の研究は、細胞レベルおよび細胞中の分子構造に関する研究によって進展した。ただし、ICRPは100ミリシーベルトを先天性奇形が出現するしきい値であると主張し続けている。しかしこの主張は、多くの研究によって否定されている。

2.ゲノム(遺伝情報)の不安定性増加、バイスタンダー効果(傍観者の意味。被曝した細胞から周辺の被爆者しなかった細胞へ遠隔的に被曝の情報が伝えられる現象。低線量放射線の生物影響を考える上で、重要な現象と考えられている)などの非標的効果が発見され、直接放射線に曝露していない細胞の遺伝子が影響を受けるという事実が明らかにされた。

3.曝露した放射線レベルが低いほど、曝露から発ガンまでの潜伏期間が長くなることが明らかにされた(RERF=財団法人放射線影響研究所のデータをもとにPierceとPrestonが2000年に立証した)。

4.ゲノムの不安定性は遺伝子に引き継がれ、世代が進むにつれてその不安定性は指数関数的に増加する。リクビダートルと放射線被曝のない女性の間に生まれた子供に染色体異常が増加しているという知見が、調査を行った3つの共和国の研究機関(モスクワ、ミンスク、キエフ)から数多く報告されている。このようにして次世代に引き継がれた遺伝子異常の蓄積によってまずもたらされる病気は甲状腺ガンであると考えられているが、断定はできない。

5.ガン以外の疾患、おもに心臓血管疾患と胃の病気が増加することが明らかになっている。また、神経精神疾患の中に低線量被曝によって引き起こされた身体影響によって発病した症例が存在することも明らかになった。これはリクビダートルとその子供を調査する中で明らかにされた知見である。

6.ロシア当局の発表によれば、リクビダートルの9割以上(74万人)が健康を損ねたと報告されている。老化が早まったり、ガンや白血病などの各種の身体疾患、精神疾患が平均以上の頻度で発症していた。とりわけ、白内障を患っている患者が多出している。ガンの潜伏期間を考慮すると、ガンが有意に増加するのはこれからであろう。

7.(政府や国債機関と関係を持たない)組織の推計によれば、2005年までに11万2000人から12万5000人(13.5%から15.1%)のリクビダートルが死亡している。

8.チェルノブイリ原発事故によって死亡した乳幼児は、およそ5000人と推定されている。

9.遺伝子異常と奇形は、直接事故の影響を受けた3地域(ロシア、ベラルーシ、ウクライナの高汚染区域)だけでなく、多くのヨーロッパ諸国で有意に増加している。ドイツのバイエルン地方(バイエルン州)だけでも、チェルノブイリ原発事故以後、1000人から3000人の先天性奇形が超過発生している。ヨーロッパ全体では、放射線被曝によって重度の障害を持つ子供が1万人以上生まれた可能性がある。かのIAEAの推計でさえ、西ヨーロッパで1万人から2万人が流産したと公表していることを鑑ると、報告されない症例は相当多いと考えざるを得ない。

10.「原子放射線の影響に関する国連科学委員会」(UNSCEAR)によれば、チェルノブイリ地域では1万2000人から8万3000人の先天性奇形を持つ子供が生まれ、世界全体で約3万人から20万7000人の遺伝的障害を持つ子供が生まれている。第1世代に発病する障害は、全発病数のわずか10%と考えられる(残りの90%はそれ以降の世代で発症する)。

11.チェルノブイリ原発事故の後、ヨーロッパでは死産と先天性奇形が増加しただけでなく、胎児の男女比が変動した。1986年以降、女児の出生が有意に減少している。
Kristina VoigtとHagen Scherbの論文によれば、1986年以降、ヨーロッパで出生した子供の数は予測より80万人減少したとされている。Scherbは、彼らの論文はすべての国のデータをカバーした上で検討した結論ではないため、チェルノブイリ原発事故が原因で出生できなかった子供の数は、およそ100万人にのぼる可能性があると述べている。同様の影響は、(1950~1960年代を中心におこなわれた)大気中核実験後にも観察されている。

12.ベラルーシだけで、1万2000人以上がチェルノブイリ原発事故後に甲状腺ガンに罹患した(Pavel Bespalchuk,2007)。WHOは、ベラルーシのゴメリ地区だけで、5万人以上の子供が将来、甲状腺ガンに罹患すると予測している。すべての年齢層を合計すると、ゴメリ地域から10万人の甲状腺ガン患者が発生すると考えなければならない。

13.ベラルーシとウクライナで発見された甲状腺ガンの症例に基づき、Malko(2007)は放射線被曝による影響を加味して、将来の甲状腺ガンの患者数を推計している。それによると、1986年~2056年までに、9万2627人の甲状腺ガン患者が発生するという結論が得られた。この計算には、リクビダートルの甲状腺ガンは含まれていない。

14.チェルノブイリ原発事故後、スウェーデン、フィンランド、ノルウェーの2006年の乳幼児死亡率が、1976年より15.8%有意に増加した。Alfred Korbleinは、1987~1992年の間にさらに1209人(95% 信頼区間:875~1556人)の乳幼児が死亡したと推計している。

15.ドイツでは、チェルノブイリ原発事故後9カ月にわたってダウン症候群を持つ新生児が有意に増加したことが科学的調査によって明らかにされた。この傾向は、西ベルリンと東ドイツで顕著だった。

16.OrlovとShaverskyは、ウクライナの3歳以下の子供の脳腫瘍の症例188例に関する報告を行っている。この報告によると、1981~1985年の発病数は9例で、平均すると年間2例に満たないが、原発事故後の1986~2002年の間の発病数は179例で、年間10例以上に上っている。

17.放射能汚染度の高い南ドイツ地方では、神経芽細胞腫というきわめてまれな腫瘍が、子供たちの間で集団発生していた。

18.ウクライナのチェルノブイリ庁が発表した公式文書によれば、1987~1992年の間に内分泌疾患は125倍、脳神経疾患は6倍、循環器系疾患は44倍、消化器疾患60倍、皮膚結合組織疾患50倍、筋肉骨格疾患および精神疾患は53倍も増加したことが記録されている。健康に異常のない避難民の比率(健康率)は、1987年には59%であったが、1996年には18%に低下している。同じく汚染地域の住民の健康率は52%から21%に低下し、きわめて重大なことであり、親が高度の放射線曝露を受けたが、自身は放射能に直接曝露しなかった子供でも、健康率が81%から30%に低下していた(1996年)。

19.数年にわたって子供と若者のI型糖尿病(インスリン依存性糖尿病)が急増したことが報告されている。

20.白血病やガンといった典型的な被曝関連疾患よりも、非ガン性疾患の増加が非常に多くみられた。

出典

核戦争防止国際医師会議ドイツ支部著・松崎道幸監訳
『チェルノブイリ原発事故がもたらしたこれだけの人体被害』
合同出版 原著2011年・邦訳2012年出版

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